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KAYANOのイタリア気分 No.88

2009年5月

ジェルソミーナが歩いた「道」

「道」のポスター

5月、風が爽やかな季節になりました。

今回は久々にイタリア映画のお話です。

新緑から初夏にかけて咲くジャスミンの花を見ると、私は決まってフェリーニ監督の「La storada(道)」を思い出します。観たのは20年以上前の事ですが、実は私の初めてのイタリア映画との出逢いでした。

「Fine(終了)」の文字がスクリーンに映し出され、劇場の明かりがついても、しばらく席を立つことが出来ないくらいの衝撃を受けました。

そして、今でも心に生き続けている映画の一つです。

初夏に咲くジャスミンの花

作品としても、評価が高く、1954年ヴェニス国際映画祭サン・マルコ銀獅子賞、1956年ニューヨーク映画批評家協会最優秀外国映画、同年のアカデミー最優秀外国映画賞を受賞しています。

初夏の太陽が眩しく輝き始める季節に思い出すからと言って、「道」は決して明るいストーリーではありません。古くセピア色の画面からは、むしろ人生の苦難が伝わってくる「孤独」を描いたシリアスな話です。

なぜ、ジャスミンの花を見ると?

実はジャスミンはイタリア語でジェルソミーナと発音します。ジェルソミーナは「道」の主人公の女の子の名前なのです。彼女はジャスミンのように、短い時間さりげなく咲いた純真な心を持った娘でした。

ジェルソミーナとザンパノー

そして、逆らえない運命、生きてゆく孤独を私に教えてくれた娘でもありました。

決して幸せではなかった彼女の人生を思い出すのは、明るい太陽のもと、芳しい花の香りに包まれて感じる、それは不思議な不思議な感覚です。

でもその時、決まって「自分の道を歩いて行こう!」と勇気も湧いてくるのです。

舞台は戦後の貧しかったイタリアが舞台です。

貧しい上に少々足りない娘ジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)は、オートバイで旅まわりをする曲芸師ザンパノー(アンソニー・クイン)に僅かなお金で買われ、どさ周りの旅に出ます。血も涙もないザンパノーは彼女をボロ切れの様に扱います。ジェルソミーナのやさしい心も彼には通じない。脱走してもつかまってしまう。

ジェルソミーナとアルレッキーノ

そんな時、彼女は曲芸師のアルレッキーノに出会います。彼の弾くヴァイオリンの哀しいメロディに引きつけられ、彼と親しく口をきくようになるのですがザンパノーはそれが面白くありません。彼に叱られて落ち込んでいるジェルソミーナにアルレッキーノは「この世のどんなものでも、役に立っているのだよ、ほらこの小石もね!」と石を握らせます。

貧しい生活を続けるジェルソミーナ
(ジュリエッタ マシーナ)

自分の運命はザンパノーと共にある。ザンパノーについて再び旅に出た彼女は、とても苦しい日々を送ります。そんなある日、ザンパノーとアルレッキーノは偶然に顔をあわせ、からかわれたザンパノーは、怒りのあまりアルレッキーノを殺してしまうのです。誰も見てはいない。ザンパノーのオートバイはジェルソミーナを連れて旅から旅へと逃避行をつづけます。でもこの事件はジェルソミーナには大きな打撃でした。

昼も夜も泣き通しです。遂にもてあましたザンパノーは、雪に埋った山道に、彼女を棄てて去って行きます。

それから数年後、年老いたザンパノーは、ある海辺の町で、娘が口ずさむジェルソミーナが好んで歌っていたメロディを聴きます。そうアルレッキーノが奏でていた曲です。

聞けば、この町で病死した気違い娘が、いつもこのメロディを歌っていたというのです。その夜、酒に酔ったザンパノーは、海浜に出て、はじめて知る孤独の想いに泣きつづけるのでした。

ザンパノー役
名優アンソニークイーン

「道」と言う映画は、自分の力ではどうにもならない運命や、誰もが逃れられない老いそいて人生の孤独を登場人物を通して描き出した名作だと思います。

アルレッキーノに小石を渡され「自分も何かの役に立っている!」と呟きながら微笑むジェルソミーナ、このシーンは私の心のバイブルにもなった部分です。

強さだけが取り柄だった、老いたザンパノーがジェルソミーナを思い大泣きするラストシーンは、彼の人生への自戒の念が伝わって来て、悲しくも印象的です。

ジェルソミーナを演じたのはフェリーニ監督のの奥様のジュリエッタ マシーナ、生涯フェリーニを支え続けたローマ大学卒の才媛ですが、足りない娘を完璧に演じ切っていました。他にも何本か彼女の映画を見ましたが、ジェルソミーナ役が際立っていたと思います。

ザンパーノを演じたのは名優アンソニークイーン、大柄でワイルドな容姿の彼は、血も涙も無い野蛮なイタリア男は適役でした。

ジャスミンが咲き乱れるお宅
(埼玉 川越市)

人間の孤独を描き出し、それぞれの人生に意味があると教えてくれた映画「道」はいつまでも私の心に残る名作。それも、2人の素晴らしい演技あってこそだと思います。

ジャスミンの垣根

毎年、初夏の散歩道、ジャスミンの香りが漂い、白い可憐な花に立ち止まる時、ジェルソミーナが歩いた「道」と、ニーノロータ作曲の物悲しいメロディーが蘇ります。

そして、「この世で役に立たない物は何ひとつない!」この言葉が心に響き、決まって、「私も自分の道を精一杯、歩いて行こう!」と静かに思うのです。

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