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南イタリア・プーリア州を旅行した人は決まって「食事がとても美味しかった!」と言う。
プーリアの料理はナチュナルでシンプル。 味が濃く個性豊かな野菜の上手な使い分け、味わい深い小麦粉から作られるパンやパスタ、そしてそれらを引き立てる香り高い深緑のバージンオイル。 まるで「美しい自然と共存して、いつもその恵みに感謝を忘れない人々が住む所には、おのずと美味しい料理は生まれるのだ!」と実証しているようだ。

そんなプーリア料理に私が引き込まれたきっかけが、セッラガンベッタで習ったニーナの料理だった。 私がイタリアで初めて暮らした街がフィレンツェ、通った料理学校がボローニャそしてトリノ。煮込みが多いトスカーナ料理・バタークリームを中心に、熟成したチーズを合わせる北イタリア料理。そんな食事に慣れていた私には、まるで大地から生まれて来たようなニーナが作る料理との出会いは衝撃的だった。彼女が作った料理を口にしたとき、異国の食べ物なのになんだかとても懐かしい味がした。

ニーナに習った「ナスのスフォルマート」本当に美味しかったな〜。 ナスを角切りにして塩を当ててしばらく置き水気を絞り、たっぷりのオリーブオイルとニンニクで20分程炒め続ける。

ナスのスフォルマートを
取り分けるニーナ

オリーブオイルがナスの美味しさをゆっくりと引き出してくれる。冷ました後にリコッタチーズ・卵・イタリアンパセリを混ぜて大きな型に流してオーブンで焼いただけの料理。今でも時々作る、いつ食べても飽きない料理だ。

エジプト豆を炊いた茹で汁にショートパスタを加えてスープに仕上げた「パスタ エ チェーチ」。豆とパスタの種類の違う甘みが溶け合って、体にも心にも優しい味わいだった。

本に載っている彼女のレシピ集を見返しながら10年前の思い出を探していたら、少しほこりをかぶった緑のノートを発見!セッラガンベッタへ持参したものだった。 久しぶりに読み返してみると4泊5日の研修で私は6回ニーナのレッスンを受けている。ニーナと共に作った4回の夕食と2回の昼食。お手伝いをしながら最後に食事、写真はもちろんメモもとても詳細に取ってあった。

ノートには「え〜、またズッキーニ?」「何で魚とジャガイモ?」「そんなにオリーブオイル!!」「またまたトマト!?」「煮込むのはただの水なんだぁ〜。」と我ながらフレッシュなコメントが書いてある。そして記憶がどんどん蘇ってくる。

食べ終わったコメント、10年前の私はかなり可愛い。 「プーリアの野菜には絶対、神様が造ってる!」 「たかがジャガイモ!!それが魚の味を吸って美味しすぎる〜!」 「シンプル イコール プーリア料理なんだ!」 「魅惑的なバージンオイルはドメニコの作品!」なんて言うのもありました。

パスタ エ チーチェを
取り分けるニーナ


パスタ エ チーチェ



大地からの贈り物
プーリアのトマトソーズ
大きな文字で書き留められた彼女の言葉は、「プーリア料理の基礎はトマト、彩りを添えるのはオリーブオイル!」だった。やけに納得したのを覚えている。 ノートを眺めながら、今の私は知識ばかりが先行して基本を忘れているような気がして、戒められる思いだった。

ところで大抵のアグリツーリズモはその日の宿泊者が全員そろって食堂や野外で食事をする。皆同じ食事をすることで、その日は家族の気分になったようでとても楽しい。
肌の色も違うのに居合わせた縁、国籍も話す言葉も違うのに…同じ料理を囲んで心は通じ合う….。
セッラガンベッタの食事時間、ニーナは食卓を盛り上げる天才だった。毎食、彼女の明るさが何よりも食卓を華やかにし、料理に彩りを加えた。出会いと人々との縁を本当に大切にしているのだと思う。

ある夜、ニーナの遠縁の女性が婚約し恋人を連れてきていた。始めは甲斐甲斐しくサービスをしながら歓談していたニーナ。いつものように料理の材料や作り方を説明、キッチンに入ったり出たりと、とにかく忙しく働き続けていた。そして一息、セコンドが終わると、なんと彼女、ドレッシーに着替えをして登場したのだった。

メイド姿のニーナ
絵本から飛び出して
きたみたいでした。

拍手の中、登場した彼女は黒いワンピースにレースの前掛けと髪飾り、メイドさんの格好をしていた。愛嬌を振りまきながらお祝いのケーキをサービスし始めた。その時のニーナはまるで「絵本から飛び出した、かわいいおばあちゃん」みたいだった。婚約者の二人はもちろん、食卓は幸せな笑いに包まれていた。

始めは裏方に、そしてフィナーレは自分で盛り上げる。美味しい料理でお客様を和ませながら、素敵な時間を過ごしてもらう。おもてなしの心を教えてもらったような気がしたあのチェーナ(夕食)。今でも皆の笑いと拍手が聞こえるようだ。  

今度はニーナにいつ会えるだろう??
忙しい時間の中で基本や心を置き去りにしてしまい、料理とおもてなしの原点を見つめなおしたくなった時こそ、また必ず訪ねて行こう。 きっと何年たっても変わらないセッラガンベッタのクチーナ(台所)に居て、ニーナは威厳のある笑顔で私を向かえてくれるに違いない。


06年春 料理をするニーナ
Kayano Sakagami 

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