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先月は魅力あふれるカラブリア州について自然・街・文化についてお話しました。
今月は旅の目的の一つだった、レストランでの短期研修についてです。

私達がカタンツァーロに着いたのは4月21日。復活祭の次の日でした。この日は"パスクエッタ"と言って、イタリアの祝日にあたります。観光地ではないこの街のレストランは、全てキューゾ(閉店)。いくら私が元気でも、着いた夜に"研修" という気持ちは無かったのですが、困ったのは私達の食事です。「家族と一緒なら どうぞ!」と現地のレストラン「ダ ペペ」が私達の夕食を引き受けてくれました。中に入ると、中央のテーブルにはウオーバ ディ パスクア(復活祭の卵型のチョ コレート)の破片が積み上げられています。昨日のフェスタの名残りなのでしょう。 お休みの静けさの漂う中、家族用のテーブルの隣に私達の席が用意されていました。 カラブリア初日の食事は「モルツェッロ」という牛の胃袋を煮込んだ郷土料理と手作りのマケロンチィーニでした。その後わかったのですが「ダ ぺぺ」イコール「モルツェッロ」と、50年以上郷土料理の代名詞として街で親しまれているお店なのです。80代のシニョーレがホールとレジを預かり、60代のシニョーラが厨房を切り盛りしています。老夫婦が心こめて準備してくれた食事に、旅の疲れもすっか り癒されました。そして、辛くてとろけるような「モルツェッロ」に後日の研修が楽しみでたまらない気持ちでした。


煮こみ始めたモルツェッロ
牛の胃袋煮込みと言えば、トスカーナをはじめ中部イタリアで食べられる2番目の胃「ハチノス」を中心に煮込んだ「トリッパ」は日本でも知られるようになってきま した。でも、牛には胃袋が4つあるのは御存じですか?ここの「モルツェッロ」は4種を使い、細かく切り、トマトと唐辛子をたっぷり入れて煮込むのが特徴です。研修当日、私達は牛の胃袋を刻む仕事から取りかかりました。 すでに何度か茹でこぼしを して、一晩お水にさらしておいた物です。素材が新鮮なのでしょう、形がしっかりと して色がとても綺麗です。

「モルツェッロ」はセコンドピアットとしてはもちろん、店先で売っているパニーニにも人気があるようです。煮込むのには4時間以上かかるため、その間に初日に頂いた「マケロンチィーニ」 に取りかかります。水と粉だけで練ったパスタを棒状にのばして適当に切った後は、手と太めの針金で、中が空洞のパスタを作っていきます。シニョーラの手のひらは針金を転がす度、魔法のように、太さも長さもそろったマケロンチィーニが形作 られて行きます。「私達は?」と言えば、初めは針金からパスタが外れなかったり、うまく空洞にならなかったり、形はバラバラ長さも色々です。

モルツェッロ のパニーニ


地方新聞の記事
見なれないお兄さんが突然、厨房に入って来て、私達の写真を取り続けています。 地元の新聞記者で是非、私達の様子を記事にしたいと言うのです。後日「日本の料理人、ペペの料理に魅了される!」という見出しで地方新聞に載ったのでした。日本人が珍しいイタリアの街がまだあるのですね。 10年前イタリアで勉強中はよく、新聞社の取材を受けたものですが...。とにかく この記事はとても良い思い出になりました。

「ダ サルバトーレ」はカタンツァーロのメインストリートから一本入った静かな通りにある、地元に愛されているレストランです。狭い入り口からは想像できないくらいの大きなピッツァの釜があり、席も80席以上はあります。 ここで私達は1日厨房に入り、何度か食事をしました。オーナーシェフのフランチェスコは32才。大柄で野性的な風貌ですが、目が優しく、しっかりした物腰からは、若いながらも店を取り仕切る力強さを感じます。フロアーマネジャーを勤める弟のマッ シモと共に、引退した両親からお店を受け継ぎ、守り続けているのです。 彼が教えてくれたのは、小麦粉を使ったニョッキでした。中部イタリアではポテトを使った物が定番ですが、ポテトを使うより軽く、辛口のトマトソースに合うというのです。何より手軽に出来ます。小麦粉とお湯で練った生地をお鍋にかけながら練り、 熱々の生地を麺台に出すと新たな小麦粉を加えながら練り混んでいきます。彼は大き な手を真っ赤にしながら、リズミカルに練り上げました。

「ダ サルバトーレ」 の オーナーシェフ フランチェスコ



フランチェスコと小麦粉の
ニョッキ作り
 手慣れた手付きで形にすると、後は私達の番だとスペースを作ります。 「冷蔵で2〜3日以内が食べ頃だよ。茹でてからの冷蔵ならお客様を待たせることなく、出せるしね。」と彼は30分かかって、なんとか形になってきた私達の作品?を、茹でてオリーブオイルをまぶしながら説明してくれました。カタンツァーロを去る前に、私達は「ダ サルバトーレ」で食事をすることにしま した。厨房を覗かせてもらったレストランで客の立場になるのは、また違った発見があります。お店はほとんど満席。研修中、友達なったマッシモやカメリエーレのステフォノはお店で無駄のない動きをしています。彼等がお客様に勧めるのは、私達が作ったニョッキです。大量に仕込んだので、良い状態の時に食べてもらおうと言うのです。 商売上手のフランチェスコの目論みでもあるはずです。
キッチンとフロアーのコンビ ネーションが良いレストラン程、お客様の気持ちも和むものです。 客席から、私達が仕込んだニョッキがテーブルに運ばれて行くのを見るのは、照れるものですね。帰り際にフランチェスコが「ニョッキは今夜で完売だよ!明日、作りに来るかい?」っと笑って送ってくれました。「本当にあと何日か彼の元で研修をしたかった!」スタッフ達とも名残り惜しい別れとなりました。 そして、日本に帰って初回の上級生徒のための「おもてなしコース」では「小麦粉の ニョッキ フランチェスコ風」と名付け彼のレシピを紹介しました。もちろん大 評判! 行く行くは中級コースでも公開予定です。是非、習いに来て下さいね。

  クロトーネのレストラン「ダ エルーコラ」は初めの2店とは異なり、エレガントなノーバクチーナを出すお店でした。ルンゴマーレ(海岸線)に位置するお店のお客様は、地元人ばかりでなく、イタリア各地からここの料理を求めて、わざわざやってくるのだそうです。店の入り口に置かれたアルバムには有名人がくつろぐ店内の様子が数多く綴られています。イタリア中に名の知れたシェフが作る料理を気丈そうなショノーラ(奥様)がサー ビスします。

ダ エルーコラ の店内


ダ エルコーラのシェフ
お店は高級店っとあって、重厚な雰囲気がかもし出されています。こんなすごいお店で、厨房に入って働く力量もないし、シェフには「私はお料理教室を主催する一方、料理記者歴?年の料理ジャーナリスト」(嘘をついてごめんなさい。旅の嘘は書捨てですよね??)ということにして、自信に満ちあふれたシェフに、インタビューと厨房見学いうことにしました。彼は、素人の私のインタビューにしっかりと答えてくれます。それにしても、「メモを取らない記者って変だな?」って思われたでしょうね。 初めは「自信過剰の叔父さんだ!」と思っていたのですが、語る口調には説得力があり、シェフの料理哲学は、私の中にいつまでも残り続けることでしょ う。「私には決まったレシピはない。野菜の鮮度、魚の顔を見てからレシピを考える。料理はその日その日で違った世界が広げてくれるファンタジーの源さ!どんなに疲れた人がやって来ても、私の料理を食べると、顔が和み幸せになって帰って行く。美味しい料理があれば、地球上から戦争なんてなくなると思うよ!」    

本当に美味しい料理を囲むと悩みごとも吹っ飛んでしまいますよね。それが、シェフが作ったため息の出るような美しい料理でも、私達が作る素朴な家庭料理でも、 心がこもっていれば、きっと同じことなのです。ミラノやローマ等各地から、はるばる彼の料理を求めて集まる人達の気持ちが忍ばれる思いでした。
その後に頂いた料理は、素材の組み合わせが斬新で、目の前の海と後ろに迫る山を お皿の上に凝縮したような魅力溢れる料理でした。

一緒に研修に行った土屋さんと
シェフの奥様

 今回、御縁があった3つのレストランは現地の方にお願いして選んで頂いただけあって、皆さん親切で、どれも機会があればもう一度行きたいお店でした。3店はそれぞれタイプは違いましたが、ひとつ共通性があるのに気がつきました。すべて、御夫婦 だったり、兄弟だったりと家族が中心になってお店を盛り立てているのです。だから どこも、お家に招かれたような居心地の良さを感じたのでしょう。レストランは食事をするだけでなく、安らぎや元気をもらいに行く場所だと改めて教えられました。 美味しいカラブリア料理とともに、家族愛や家族の絆を教えられた心温まる有意義な研修となりました。

次回、カラブリアの旅の最終回はチーズ・オリーブオイル・ワイン・食品加工の工場など、食文化を訪ね歩いた事をお話したいと思います。


By Kayano Sakagami 

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